スクエアリングサービス/テスティング中級コース(マネージャ編)
2013/08/30 作成
2015/12/02 追記

テストマネージャ編のシラバス日本語版(2012.J01)のレビューメモ

本書は、「テストマネージャ編のシラバス」のレビューメモです。 対象シラバスのバージョンは「2012.J01」です。

※2015/12/02時点での最新のシラバスは「2012.J03」です。 ここに指摘しているものは「2011.J01」に対するレビューですので注意ください。 最新版では既に修正されているものもあるかもしれませんし、ページ番号もずれているかもしれません。 ご了解ください。

2013/08/26に公開された2012版のシラバスは、概要編、テストマネージャ編、テストアナリスト編、テクニカルテストアナリスト編で4分冊になっています。 テストマネージャ編について独自にレビューを行っています。そのメモを公開します。

提供されるシラバスの日本語訳は、伝統的に不適切な訳語や誤訳が多く、品質が不十分と言わざるを得ません。

ここでは、筆者がテストマネージャ編のシラバスを読んだ際に、怪しいなと思う箇所を原文にあたり、不適切な訳語や誤訳に気づいた点を列挙しています。 学習者や読者には、シラバスを読む際の参考資料として(ほとんど正誤表の位置づけとして)、利用いただけたらと思います。 また、翻訳を手がけられている方々には、ぜひ、参考にしていただいて、 早期にシラバスの修正・改訂を行っていただけることを期待しています。

以下、各ページや項目ごとに気付いた点を順に列挙しています。 致命的なものには(■)を、軽微なものや要望には(□)をマークしています。 なお、指摘事項の記述は、文体が丁寧ではありませんが、ご了承ください。



指摘事項


6 テストツールと自動化

6章で大きく問題だと感じられる点は2点です。まず、ツールの選定においては、 コスト便益分析(cost benefit analysys)の手法にもとづいて語られるべきなのに、「コストメリットを分析して」などと曖昧な表現になっているため、 ROI、固定費、機会コストなどのつながりが悪くなっています。次に、6章はFLシラバスと相補的であるのに、 訳者はFLシラバスとの整合性を意識していません。では、以下、細かい部分を指摘していきます。


P66 6.2 ツール選択

(■)「コストメリットを分析して」という表現が元凶だ。cost benefit analysysは、手法であるため「コスト便益分析によって」あるいは 「費用便益分析によって」と明確にする必要がある。benefitを「利点」とか「メリット」とか訳しているが、ここではすべて「便益」で統一して訳すべきだ。 コスト便益分析を行うから、ROI、固定費、機会コストなどの話につながるのだ。


P66 6.2.1 オープンソースツール

(■)「テストケースの自動生成に至る」という表現では、「テストケースの自動化」としなければならない。 automationは、自動生成だけでなく、自動実行などの可能性も含んで表現されているからだ。

(□)「テストプロセスのほとんどすべての局面で利用できるものがある」は誤解しそう。大掛かりなテストマネジメントツールのように読めてしまう。 「テストプロセスのほとんどどのような切り口に対しても該当するオープンソースツールがある」ではどうだろう。

(□)「一般的でなかったり」では意味がわからない。non-traditionalの訳だが、たしかに「非伝統的であったり」でも分かり難いが、 良く使う用語なので非伝統的のままの方がよい。

(□)「特定の問題を解決したり、単一の問題に対処したり」では何が言いたいかわからない。problemを問題、issueを課題と訳すとどうだろう。 「特定の問題を解決したり、単一の課題を対象としたり」か。あまりかわらないかな。 ただし、problemとissueを使い分けてあえて並列している意図を汲んでやりたい。

(□)「多くの場合、正確性と、特定のタスク(たとえばDO-178Bなど)への適合性を保証している」では誤解する。 正確性と適合性が並列に語られているように読める。 「多くの場合、正確性を保証し、特定のタスク(たとえばDO-178Bなど)へ適合している」とすべき。


P67 6.2.2 カスタムツール

(□)「通常とは異なる環境、通常行うプロセスとは異なるプロセス」の「通常」がピンとこない。 素直に「カスタマイズされた環境や、独自なやり方に変更されたプロセス」でいいのでは。

(■)「組織の複数のアプリケーションで利用することがある」ではおかしい。アプリケーション=利用のことだ。アプリケーションプログラムではない。 「組織内で横断的に利用することもできる」でいいのでは。

(□)「偽陽性の欠陥レポート」は補足しておくべき。一般的な「ぎようせい」の音では「擬陽性」であり、「偽陽性」は一般的ではない。 用語集を参照させるために「偽陽性(false-positive)の欠陥レポート」のように記述するか、 「偽陽性の欠陥レポート(欠陥はないのに欠陥があるかのように報告するもの)」としておくと親切だな。


P67 6.2.3 投資効果(ROI)

(□)「投資効果(ROI)」は「投資対効果(ROI)」の方がよい。 コスト便益分析(cost benefit analysys)で語るべきところなので、その方が一般的。

(■) benefitを「利点」とか「メリット」と訳しては誤解する。「便益」で通したい。 そうすることで「コスト便益分析(cost benefit analysys)」で評価するんだということが明確化できる。

(■)「固定費と初期コスト」ではダメ。改訂の意図がわかっていない。「初期コスト」ではなく「非固定費」とすべきだろう。 以前のシラバスではinitial cost(初期コスト)だったが、non-recurring costに変更された。その意図を理解すれば、初期コストという表現は出てこない。 recurring cost=固定費/経常費用だとすると、 non-recurring costは、非固定費/経常外費用である。non-recurring costの大半はたしかに初期コストではあるが、 ツールを他部門や他プロジェクトに展開することを考慮して、継続的に発生する固定費以外の費用があることを考慮したようだ。 継続的なら固定費だろうとも言えそうだが、毎年事前に考慮できないものもあるからだ。 他プロジェクトへの展開ごとに都度必要となるトレーニング費用、必要に応じて行う他ツールとの統合費用などが該当する。

(□)「リスクによるコスト」という表現がおかしい。ROIは、固定費と非固定費の両方で捉える。 また金銭上のコストそのもので直接的に捉えられるものと、間接的に捉えるものの両方で捉える。 間接的に捉えるものには、リソースや時間のコスト、ツールの価値を下げるようなリスクがある。

(□)「目的と目標を満たすためのツール要件」という表現は「目的と目標に合致したツール要件」くらいの方がいい。

(□)「初期トレーニングの実行」という表現は「初期トレーニングの実施」でしょう。

(□) training,mentoring,coachingの訳語を統一して欲しい。この章だけではないが、トレーニング、教育、訓練、メンタリング、コーチングなど様々だ。 p69ではcoachingをトレーニングとも訳している。いっそ、トレーニング、メンタリング、コーチングはカタカナのままにしよう。


P68 つづき

(□) 「すべてのツールに伴う機会コスト」という表現はしっくりこない。「すべてのツールの機会コスト」でいい。機会コストはツールに伴わない。 その後の文もニュアンスがおかしい。「実際のテストタスクでも費やした可能性がある」は「実際のテストタスクで費やされる可能性がある」だ。 「より多くのテストリソース」とは、前述の固定費と非固定費で計上した費用(金銭上のコストそのもので直接的に捉えられるもの) 以外の隠れたリソースや時間のコストという意味である。そういったニュアンスにしないといけない。

(□) benefitは「利点」ではなく「便益」で通したい。メリットがあることを示すだけではなく、そのメリットの量を定量的に捉える必要があるだろう。

(■) 「特定のテストタイプのテスト実行数の増加(たとえば回帰テストなど)」は間違い。「信頼のあるテストタイプの増加(たとえば回帰テストなど)」である。 テスト実行数ではなく、確実なテストタイプの数が増えることを言っている。後続の「ツール使用により可能となるテストタイプの増加」と対句的である。

(□) 「使用する全ツールの相関関係により計算される」の表現は変だ。相関は2者について語るもの。 「使用する全ツールの総合結果である」ではどうだろう。


P68 6.2.4 選択プロセス

(□) 「テストツールは、... 、長期にわたる投資となる場合がある」は「テストツールは長期にわたる投資である。...」のように語ること。短期のことは語っていない。

(□) 「価値を取得する」は「価値を得る」

(□) 「ツールを使用するためのプロセスおよび接続性を考慮して」の「接続性」を補完しておいてほしい。 せめて「ツールを使用するためのプロセスおよびツール間の接続性を考慮して」にしたい。ツール間の接続においてデータの変換を伴うなどの部分のことだ。

(□) 「プロジェクトにとっては、効率的なツールが求められる」は他と対句的に扱うなら「プロジェクトにとって、ツールは効果が求められる」かな。 効率ではなく、効果である。投資対効果の話であるから。

(■) 「テストツールの選択プロセスはFLシラバスでは次のように説明している」以降の記述が、FLシラバスの記述と微妙に異なる。整合していない。 どうするつもりだ。
・トレーニングおよびメンタリング --> コーチングやメンタリング (※トレーニングと訳すと次の項目と重複する。)
・トレーニングニーズ --> トレーニングの必要性
・コスト便益(cost-benefit)を見積もる。

(□) 「能力を検討する」より「能力を考察する」かな。

(□) なぜ「理解(understand)」、「選別(scrub)」、「把握(listening)」が強調してあるのか、筆者も不明。選別、把握の訳語もしっくり来ない。


おわりに

以上は、現時点で気付いたものを列挙したに過ぎません。まだ読み込めていない部分に 欠陥が潜在していると思われます。新たに発見した欠陥は随時、追記していく予定です。

シラバスの欠陥は非常に「高価な欠陥」であることを自覚いただいて、早期に対応していただけることを期待しています。 なお、指摘の内容に勘違いや間違いがあるかもしれませんが、大半は明らかな欠陥と認められるはずです。 読者の責任と、シラバス翻訳担当者の責任において、指摘の内容をよく検討し、何が「真」であるかを判断くださいますよう、お願いします。